2000年前後に製造されたニューシリーズ初期型レイノルズ(クロモリ)のオーバーホールです。今回は年代ものということもあってレストアに近い作業になりました。
ハンドルは、少しでも上体を起こした姿勢で楽しみたいとのご希望で
純正のモスキートバーからMoku2+4 オリジナルのLoveday barに変更されました。
モールトン博士とゴールドテック社との共同開発の前後ハブ。
このハブはフロント70mm、リア120mm幅と通常規格とは異なり、
モールトン専用規格で作られています。
この特殊な規格を採用したのは、1995年に英国ローバー社より
MGFという2シーターオープンカーが発売されたのがキッカケとなっています。
このMGFの幅の狭い(縦の収納が狭い)リアトランクに、
分解したニューシリーズを重ねて収納する際に
少しでも重ねた幅が小さくなるようにハブの幅を狭める設計がなされました。
フロントハブは現在も70mm幅で製造されていますが、
リアハブはこの年代の完成車にだけ展開されていたものです。
モールトン博士は1945年の戦後から経済復興するにつれレジャーも盛んになり、
クルマに自転車を積んで楽しむことを早くから提案していました。
そして1960年代にはフレームを分割したモールトンが販売されています。
完成車に装備されていた当時のShimano 7700 リアディレイラー。
この辺り(7400、7700、7800)のShimanoのコンポーネントは
アルミのポリッシュ仕上げで
現行モデルとはまた違った雰囲気を持っています。
これ以降はカーボン素材に合うダークトーンでエッジの効いたデザインに
どんどん移行していったのでこんなデザインのものはもう出てこないでしょうね...。
スモールパーツの供給も限られてくると思うので、
ここら辺のShimanoコンポは、オーバーホールで充分蘇るので
使い倒すというよりは、ダメになる前にオーバーホールを繰り返しながら
大切に残して頂ければなと思いながらいつも作業しています。
<ここから作業編>
遠方にお住まいでしたので
お客さまご自身で段ボールに梱包していただき送っていただきました。
ひとまず取り出して点検していきます。
分解する前に現状を確認していくと、
リアホイールが大幅に傾いていることがわかりました。
画像から緑の矢印方向に車輪が傾いているのが確認できます。
ハブナットが左右どちらかに緩んでいるのかもしれないと確認してみましたが、
特に緩んでいることもありません。
タイヤの空気圧を適正に入れると、タイヤの左側面がフレームに干渉し、
その反対の右側は大きく隙間があいています。
これだけホイールが傾いていたとなると、
いろんな面で走行の抵抗になっていたでしょうね。
左右リアエンドの位置が大きくズレていて、左右の誤差は4mmほどありました。
困ったことに右側のリアエンドが左斜め方向に削り込まれていました。
画像は、削り込まれていた右側のディレイラーハンガーの外側(左画像)と内側(右画像)。
おそらく過去にリアエンドのアライメントを修正しようとしたのでしょう。ヤスリ等で削ってアライメント修正する場合は、フレーム定盤がないと難しいと思います。
この削り込んだ部分を修正する方法は二通りあります。
一つは削りこんでいないリアエンドの左側を削ってホイールを中心に戻す方法。
この方法だとホイールが後方にズレてしまい、ブレーキシューが届かなくなったり、
リアの変速が悪くなったり、本来のフレームジオメトリーも変わってしまい、
長所はほとんどありません。
もう一つは削り込んだ部分を埋めて元に戻してしまう方法。
今回はこの方法で修理していきます。
左右のリアエンドが正しい位置に戻りました。
フレームのアライメントを確認するために分解したフロントフォークAssyですが、
フロントフォークのアライメント点検を行うために仮でもう一度組み直します。
New Seriesは大きく分けると3世代あり、それぞれ細かな部分が異なります。
リアフォークピボットも世代によって異なります。
第1世代(初期/1997〜2000年前後):オイルレス・フランジブッシュ
第2世代(2003年前後〜2015年前後):フレクシター・スプリング
第3世代(2016年前後〜現在):オイルレス・メタルブッシュ
こちらのNew Seriesは第1世代なのでフランジブッシュです。
やはり錆が物語っているように30年弱、一度も分解されていないように思われます。
フレームの錆を綺麗に取り除いて錆止めを塗り、新しいブッシュに交換します。
フレームの中央にあるキングピンキャップ(フレーム分解部品)の裏側も錆の定番箇所です。サンドブラストで錆を取り除いていきます。
左)錆除去前、右)錆除去後
左)フレクシター・スプリングを取り外す時にボルトの一つがとても硬かったので点検するとヘリサート(ネジ穴の強度を上げるためのもの)が飛び出してきていたので取り除きます。
右)ネジ穴を修正します。
この年式に見られる特殊なモールトン純正リアハブ。
構造としては、カートリッジベアリングがたった二つしかなくて、
フリーボディ内のベアリングはフローティング(オイルによって浮いている)
という仕組みを採用していてとても画期的です。
モールトン博士もこのハブの設計に携わっていますが、
発想が極めてシンプルで合理的「やはりモールトン博士だ!」と感じてしまいます。
このような発想や構造を持っているものは個人的にとても好きなのですが、
ハブの分解には慎重を要します。
なぜなら、壊れてしまうと部品は二度と入手出来ないからです。(中古でも難しい)
自転車の部品は点数も少なく構成自体は難しく無いものも多いのですが、
自動車に比べると自転車はトルク(締め付ける力)がとても低くて繊細なので、
間違った方法を取ると簡単に壊れてしまいます。
、
過去にこれと同じハブのオーバーホールで分解する際、
何となくこれで良いのかなと想像はできましたが、
下手をすると取り返しがつかなくなると考え
正確な分解方法の情報を集めようと
モールトン社をはじめ、Moultoneer(イギリスのモールトン・マガジン)の編集長、
ハブメーカーの責任者にも聞いたことがあるのですが、
残念ながらいずれも「昔過ぎて分からない」との回答でした。
その時に求めている情報が得られず、
既存する工具もなかったので
ハブを分解する専用工具をワンオフで製作しました。
モールトン日本総代理店の代表 富成氏はこのハブについて
「自転車部品の歴史上、特筆すべき設計」
とおっしゃってました。
また、このモールトン純正ハブをオーバーホールした事例は世界ではじめてなのでは?とも言われていました。
画像はフローティング構造でチタンニッケル・コーティングのフリーボディです。
内部を手で回すとヌルヌルと精度良く回ります。
シンプルな構造なのに良い動きです。
エンジンのコンロッドメタルやクランクメタルみたいな感じですね。
完成後はお客さまより送っていただいた時の段ボールに梱包し直して、
東京へ向けて発送しました。
その後、お客さまより感想をいただきましたので一部ご紹介します。
「おかげさまで、素晴らしい乗り心地を楽しんでいます。
手を入れて頂いたニューシリーズ・・・本当にスムーズな走りで・・・
未だ、乗るたびに驚いています。ありがとうございました。」
こちらこそありがとうございました。
私も20年以上モールトンを楽しんでいますが、
年を重ねて環境の変化や体調の変化が出てきたここ10年ぐらいの間に
モールトンの凄さ・楽しさを改めて感じるタイミングがたくさんありました。
コロナ禍であったり、
この3月に右大腿骨を骨折し入院・手術・リハビリと
前向きな気持ちになれない時もあったのですが、
ネガティブな環境に置かれている時こそモールトンの凄さを感じますし、
いまだ驚き、発見があります。
これからも年齢と共にいろんなことを感じさせてくれる自転車だと思っていますが、
モールトンには底知れない魅力がありますね。