2023-03-24

Moulton New Sereies Mk1 - Reynolds 中古車両&カスタマイズ( 20インチから17インチ化&ベルトドライブ)

Used 初期型 AM-New Series Mk1 レイノルズ(クロモリ製 )の組み立て&カスタマイズの事例をご紹介します。

Moku2+4で探し在庫していた希少な初期型のAM-New Series レイノルズのUsedフレームをベースに、世界で3台のみプロトタイプとして製作された英国ベントレーと英国モールトンのコラボレーションモデル「ベントレー・モールトン」をモチーフにパーツを構成されました。
カスタマイズの大きな特徴は、標準の20inchから17inchへホイールをインチダウンしたところと、標準のチェーン駆動からベルトドライブをチョイスされたところです。
17インチの軽快さと、チェーンに比べて摩擦抵抗が少ないベルト駆動とが合わさり、ペダルがとても回しやすく街中だと本当に快適です。
このカスタマイズのはじまりは、ご購入の際に「過去にプロトタイプで製造されたベントレー・モールトンのような17inch仕様のベルトドライブで組むことは出来ますか」とのご相談からでした。

まず構想を立てる際に、本来の20inchにいつでも戻せるようにという点を念頭に置いて進めていきました。
この場合、フレームを加工せずに17inchへ“インチダウン”し、さらにそこへ本来ならこのモデルには取り付けられないベルトドライブをこれまたフレームを加工せずに取り付けなければなりません。もう作業に入る前の構想の段階で結構な時間が掛かってしまうのですが、モールトン博士生誕100周年の記念モデルとして発売されたMoulton CENTURY(完売モデル)の17inchが思いのほか面白くて楽しかったので、この初期型AM-New Seriesにもこの感じが出せたら良いなと思いましたし、ご依頼主もモールトンを数台所有されていて、それぞれ楽しまれていたので、こんなモールトンが一台あったらまた楽しいだろうなとも思ったので、じっくり考えれば出来る見込みあったので、少し時間をいただいて進めていきました。

とはいえ正直なところ、ジオメトリーを考えながら仕上がりのイメージを想像して、外しては付けてと何度も試行錯誤しながら組み立ていくので、なかなかの時間が必要でした。

話は逸れますが、ホイールは現行のクルマで例えると"インチアップ"する傾向が多いように感じますが、クラシックミニの世界では逆に”インチダウン”の方が定番だったりします。
ミニは、1985年ぐらいから12inchホイールに変更なったのですが、ミニの整備士をしていた頃でも、1960年代Mk1の10inchホイールの雰囲気を好まれて
”インチダウン”される方が多かったので、このAM-New Seriesの”インチダウン”も同じ感覚なのかもしれないなぁと思いました。

初期型New Seriesの特徴「ダンピングバルブ付きハイドロラスティツクスプリング」。

20inchのハイドロラスティックが搭載されたモールトンの新しいシリーズ ”New Series” が発表されてから僅か3〜4年で現在の仕様に変更されているため、このAM-New Series Mk1は希少性の高いモデルの一つとなっています。一目で分かる初期型モールトンの特徴ですね。

ホイール径を20inchから17inchにインチダウンするにあたって、ベントレー・モールトン自体がブレーキ台座をフレームに直接ロウ付けされている仕様だったため、同じようにすることも検討しましたが、元々は20inchのフレームなので、いつもで20inchに戻せるようにブレーキアダプターをワンオフで製作し、17inch化を図りました。

前後共にブレーキアダプターを取り付けて17inchにインチダウンした完成画像。

泥よけの装着も依頼されていたので、最終的にはロングアーチのキャリパーブレーキを組み合わせていますが、初めての試みだったのでショートリーチも含めてどのブレーキが取り付けられるのか調べたり、実際に現物と照らし合わせてイメージしたり、簡易的なアダプターを取り付けて問題ないか確認したりと、実行(アダプター製作)へ移るまでに考えなければいけない事がたくさんあります。初めてするカスタマイズやイレギュラーなものについては、実際の作業というよりは考えるという部分に多くの時間を使っています。

泥よけも17inchに合わせて、加工して取り付けました。
これも一筋縄ではいきません。

タイヤのラインに沿って取り付けてある泥よけ。

左)リムはモールトン純正、右)フロントハブもモールトン純正。

日本ブランド"Sugino-スギノ"のクランクアームとベルトドライブ専用のチェーリング。

AM-New Seires Mk1をベルトドライブにするにあたって、先でも書いたとおりフレームを加工することも検討しましたが、加工せずにベルトが装着できるようにテンショナー(絶版品)を取り付ける選択をしました。

変速系はSturmey Archer(スターメー・アーチャー)3speedを選ばれました。
シフトレバー(右)のクランプ径はφ22.2mm、ハンドルバー径はφ24mm、そのままでは使えないため、変速レバーのバンド径を加工して取り付けました。

ウイッシュボーンステムの長さは当初180mmでしたが、オーナーの体格に合わせて110mmに短く加工しました。

ハンドルセンターに穴を開けて、ブレーキケーブルを内装しました。
極太スポンジグリップを取り付けるためです。

左)サドルはBROOKS B-67 Aged。
右)茶色(絶版品)のスポンジグリップとポリッシュ仕上げのブレーキレバー。

モールトンのラインナップで、17inchのホイール径 + フレクシタースプリングを採用しているモデルは現在生産されていませんが、生誕記念100台限定のMoulton CENTURYが17inchでフレクシタースプリングを採用していたモデルだったので、CENTURY(左)とAM-New Series Mk1(右)を比較してみました。
画像では判別しにくいかと思いますが、一応撮影してみました。

CENTURYに比べて17inch化のAM-New Series Mk1は、トラスチューブ位置・BB高さが低く、ホイールベースも短くなっています。
AM-New Series Mk1を17inch化にするにあたって、過去に計測した全モールトンのジオメトリーを参考にしながらデメリットになりそうなところも意識しつつ、充分に考えた上で進めていきました。例えば、BBの位置やハンドリング、乗りにくくなったり扱いにくくなってしまわないように様々な点に注意し、作業を進めながらも常に総体的に考え組んでいきました。

その甲斐あってか完成後、全くと言っていいほどデメリットは感じませんでした。
納車前にはどの車両も毎回確認のため試乗をしていますが、今回は組みながら特に気になっていた部分として、ホイールベースが短くなっている事、BBの高さも低くなっている事への影響もなく、CENTURYとAM-New Series Mk1両者のフロントフォークのトレールを見比べれば、17inchにホイール径を小さくしても、ハンドリングに影響が出ないのは一目瞭然でした。
あまりの乗りやすさ、乗り心地に私が通勤で使っているAM-New Series Mk1も17inch化したぐらいです。

CENTURYとの比較に続いて、従来の20inch AM-New Seriesと17inch化したAM-New Seriesを比較してみると、見た目以上にホイール径が小さくなり、キングピン位置も下がっています。これも画像では判別しにくいかと思いますが、一応撮影してみました。

              <ここから作業内容です>

Usedフレームなので、オーバーホールしながら組み立てていきます。
まずは全て分解します。

キングピンを分解していくと気になる箇所が出てきました。
キングピンのヘリサート加工が深く、ボルトのかかりが浅くなっていました。
左)修理前、右)修理後。

※ヘリサート加工とは、ネジ山の強度を上げるためにコイル状の鉄製部品を挿入する加工方法です。


左)修理前。狭い=ネジ山のかかりが浅い
右)修理後。広い=ネジ山のかかりが深い

キングピンを修理するには、キングピンに取り付られているヘリサートを取り外さなければなりません。このヘリサートを取り外す作業は簡単ではありません。

左)取り外したヘリサート(短)、右)新たに取り付けるヘリサート(長)

長いヘリサートに交換して、ネジ山位置(ヘリサート位置)を浅くします。

よく錆びるキングピンキャップの裏面は錆び止めを塗っておきます。

シートチューブ内の錆を取り除きます。
左)除去前、右)除去後。

モールトンは、シートチューブ内に防錆スプレーを時々吹いておくことをお勧めします。
※私も普段から通勤で雨に降られた際は、シートチューブとフォークコラムに必ず軽く防錆スプレーを吹いています。

リアフォークピボット可動部をスムーズに動くように調整します。
スピンドル(左)をほんの少し削り、シム(右)で調整します。

フレームアライメント点検と修正。

生産当初に取り付けられた純正の Shimano DuraAceヘッドセットを全て分解して、洗浄とグリスアップをします。

ウイッシュボーンステムを短く加工するには、まずメッキを剥離する必要があります。
メッキを剥離すると、ステム付け根のロウが溶けて流れてしまいます。
流れてしまったロウを、もう一度ロウ付けで盛ります。

サンドブラストして、再メッキして完成。
ステム アームが180mmから110mmに加工できました。

ハンドルバーにブレーキケーブルを内装するための穴を開けますが、少しでも強度を確保したいので、ステムの両端ではなくクランプされているステムの内側に穴を開けます。
穴を斜めに開けた後は、ワイヤーケーブルが鋭利なバリにひっかからないように穴を研磨します。

今回一番時間を要したのは、17inch化とベルトドライブの装着です。
ベルトドライブは、ホイールを後ろに引きながらベルトの張りを調整したり、ベルトの長さを導きますが、今回はホイールを後ろに引ける構造(トラックエンドのフレーム)では無いため、ベルトの引きが調整できるベルトテンショナーを取り付けています。

ベルトテンショナーを取り付ける方法を取ったとしても、このAM-New Series Mk1に適したベルト長が必要で、それも数あるベルトの中から1つのみしか合いません。

実車に装着してみないとそのサイズが分からないため最終的には1つに絞りますが、サイズ展開もいろいろあるので、可能性のあるものは幾つも仕入れました。
その幾つものサイズの中から適したベルトの長さを試していきます。
ベルト長以外にも、ベルトのライン(チェーンライン)がとても重要で、ベルトラインが1mmずれるとフレームに干渉してしまうため、クランクアームのブランド違いや形状の違い、ボトムブラケットの長さなど、何度も仮付けしながらいろんなパターンを試しました。

泥よけを取り付けるにも、すんなりとはいきません。諸々の加工を施しました。
左)適切なボルトにするためにボルトを切断。右)泥よけ専用のワッシャーを使います。

ブレーキアダプターと泥よけの干渉を避けながら、泥よけとタイヤのクリアランスも確認しつつ、泥よけの仮付けを繰り返して、取り付けスペーサーの長さを加工し調整していきます。

微調整を繰り返してようやくリアの泥よけ装着が完了。
ブレーキアダプターと泥よけの隙間は約2mm。

リアの泥よけを取り付けるのにも時間を要しましたが、まだフロントの泥よけが残っています。

17inch化に伴い、リア同様にフロントもマッドガードとブレーキ位置を考えなければなりません。ブレーキアダプター下面と干渉してしまうマッドガードの先端をカットして、既存のステーを取り外し、新しい長いステーを付け直します。
さらにアルミ丸棒からスペーサーを削り出してブレーキアダプター背面との干渉を防ぎます。

作業を進めていくと、ブレーキアダプターの取付角度が良くない事が判明したので、もう一度ワンオフで制作し直すことにしました。

17
inch化するにあたって、仮付けでの構想は出来ていても、いざ本取り付けを進めていくと、気になる所が出て来てやはり簡単には行きませんね。


フロントの泥よけ先端を短く加工します。
ワンオフで製作したブレーキ取付アダプターの位置より泥よけが前に出ないように、アダプターの後ろ側に装着できるように泥よけの長さを短くします。
全体の見栄えも大切なので、これも削ってははめ込んでを何度も繰り返します。

泥よけの裏座金も加工します。

泥よけ取付スペーサーもアルミの丸棒から削り出します。

泥よけの下準備ができたので、仮付けをします。

作業の画像はここまでです。
ベルトドライブと前後泥よけの装着だけでもかなりの時間を要しましたが、乗った時のフィーリングも見た目もいい感じの雰囲気に仕上がったと思います。

兎にも角にも17inch仕様のフレクシターモデルの良さを再認識できました。
実際に私自身が所有するNew Seriesにも17inchにインチダウンしたぐらい、私が好むモールトンの使い方、乗り方にぴったりハマっていて、全体的なバランスの良さが際立っていると感じました。

フレクシタータイプのモールトンを所有されている方で、のんびりと・ゆったりとモールトンを楽しみたい方には心地良いなぁと感じられるとカスタマイズだと思います。
取り回しも軽いですし、全体的なスピードは落ちますが17inch特有の軽快さが感じ取れるので純粋に乗ってて気持ちが良いです。
ちなみに、現行のAM-New Seriesでも17inch化のカスタマイズはできると思います。