2022-10-03

AM-Speed Orange Campagnolo 10s & モスキートバー

お客様からのご依頼いただいたAM-Speed Orange Campagnolo 10speedの事例をご紹介します。

スポーツモデル AM-Speed のオレンジにCampagnolo カーボンシリーズの初代10速をアッセンブルして、レーシーの中にクラシックさも取り入れました。


オレンジの車体だけを指定されて、コンポーネントをはじめ、パーツのセレクトはすべてお任せいただきました。

初めてのモールトンということで、ご予算を伺った上で、パターンや組み合わせを色々見て頂いて、お客様の反応を確認しながら、お好みに合うように少しずつパーツを絞っていきました。

打合せの際に、スポーティな物も好みだと伺っていたので、スポーティなデザインのコンポーネントを幾つか見て頂いて、カーボンパーツはお好みに合いそうな印象を受けたのでShimanoではなく、Campagnoloのコンポーネントを軸に構成を考えていきました。

Campagnolo Record 初代カーボンクランクセット&10速初期型フロントディレイラー。

お好みを伺ううちに、スポーティに振りすぎない、クラシックな部分も感じられるモールトンをこのAM-Speedに求められておられるのではと感じたので、この年代のRecordをオススメししてみたところ、気に入っていただけたのでこの線で進めることにしました。
これはアルミからカーボンへ移行し始めた初期型クランクですが、当時展開されていたアルミ製のラインナップに加わり、2種類選ぶことができました。
細身のクランクアームからすらりと伸びた5本のスパイダー。
このデザインはいつ見ても美しいと感じます。

ペダルは、初代カーボンクランクセットの存在を邪魔しないようにシルバーのボディにブラックのプレートを合わせました。MKSのEzyシリーズ、脱着式ペダルです。

リアディレイラーもクランクセットと同じシリーズのRecord 10速。
この年式のディレイラーは、アルミポリッシュに一部カーボンが取り入れられています。

この当時のブレーキキャリパーは、ポリッシュとブラックの2種類ありますが、ここは敢えてブラックで引き締めました。

カーボンクランクとシートポスト、縦のラインに入るパーツを黒で合わせたので、ブレーキキャリパーも黒を選びました。ここも色で悩みましたが、なるべくフレームのオレンジを際立たせたかったので、シルバー色でぼかすより、ここは黒で引き締めることにしました。

ブレーキのデザインもこの当時のものはレーシー過ぎず、ぷっくりと丸みを帯びているところにクラシックさを感じています。全体で見ると相反してるようで調和してる感じです。

Campagnoloのブレーキは、ショートリーチタイプのものしか展開されていないので、ロングリーチ専用で設計されているモールトンのフレームにはアダプターが必要になります。
そこでMoku2+4オリジナルのショートリーチブレーキアダプターを取り付けました。
現物の合わせのワンオフで製作し、ブレーキに合わせてブラックアルマイト処理を施しました。

ハブも同じ年代のRecord Campanolo10s。
スポークは黒色で足元を引き締めました。

シルバーのスポークは、全体で見た時に放射線状のシルバー色が前輪・後輪と二箇所に出てくるので結構目立つ部分でもあります。また全体的にクラシックなイメージも強くなるので、ここは軽やかに黒色のスポークを選びました。でもハブはポリッシュ。ここでもクラシック要素は忘れていません。この当時のハブは、とにかくデザインが美しくてクラシック。いつ見ても惚れ惚れします。

フレームのエンド幅135mmに合わせて、エンドアダプターをワンオフで製作しました。
130mmのリアハブだったものを、製作したアダプターで延長して135mmに変換しています。

Moku2+4オリジナルモスキートバー。

ここもお任せだったので悩みに悩みました。
ハンドル形状はドロップにするのか、モスキートバーにするのかは最後まで悩みました。
ポジションは、後々のドライビングプレジャーに大きく関わってくるところなので、様々なタイプをイメージしました。

モスキートバーにスレッド仕様のウイッシュボーンステムってモールトンならではの佇まいだと思います。モールトン博士もご自身のモールトンはモスキートバーにされていましたからね。
レーシー且つクラシカル、そこに少し個性を出してモスキートバーというコンセプトにしました。

Moulton純正のステンレス製シフトマウント。
右)少しでもシフトケーブルの引きを軽くするため、インナーライナーを追加します。

Campagnolo10s バーエンドシフター取り付けに伴い、フロント用シフトマントを少し加工して取り付けました。

ブレーキレバーはポリッシュ、グリップはブラック。
ブレーキケーブル内蔵仕様のレバーです。

スポンジグリップは一時期モールトン純正の完成車に採用されていたアメリカ製グラブオン。
グラブオンのグリップを合わせたかったので内蔵ケーブル式のレバーを探しました。
グラブオンのグリップ径は太いので、素手でも握りやすくて疲れにくいです。

サドルはイングランド製 Brooks Swallow。
シートポストはイギリス製 USE カーボンシートポスト。

USEのシートポストのヤグラは、セッティングが少々面倒ですが、スッキリしたデザインがシンプルでスマートです。Swallowサドルのスポーティなデザインがより引き立ちます。このサイズの製品が各メーカーからどんどん廃番になっていく中、貴重な代物です。

<ここからフレームの下処理編>

新車として本国より届いた状態での前後サスペンションは、動きが渋くかったり、その反対にガタが発生していたりと良い状態ではないことが殆どです。

すべてを確認するため、アッセンブルして(組み立てられて)届いたサスペンションを再度分解し、調整し直します。

ヘッドベアリングを圧入する前に、ヘッドチューブのリーマー&フェースカット処理します。

ヘッドベアリングを精度良く回転させるために、フォークコラムクラウンのフェースカット。
(左)フェースカット前、右)フェースカット後。

ここからフレームアライメントを点検して調整します。

次にリアエンド幅とエンド左右のズレを確認し、調整します。

次にフロントフォークのアライメントを点検して調整します。

そしてフロントエンド幅とエンド左右のズレを確認し調整します。

最後にフロントサスペンションをスムーズに動かすために、フリクションプレート接触面にも歪みがあるのでアライメントを点検し、修正します。

ウイッシュボーンステムのスレッド仕様を取り付けるにあたって、フォークコラムをアヘッド仕様からスレッド加工しました。

フレームのセッティングが整ったらいよいよパーツを組み付けて、最後に試乗して完成です。


このAM-Speedをお買い上げいただいたお客さまは、数年前から小径車でサイクリングを始められて、もう少し車両をアップグレードしてみたいとのことで色々をお調べになられてモールトンに行き付かれたそうです。

今回のような全てをお任せいただいた場合は、お客様の意向を汲み取った上で、
最終的に自分が乗りたいモールトンに仕上げる=絶対にカッコいいモールトンに仕上げる。という気概を持って構成を考えています。

前述していますが、ドロップにするのか、モスキートにするのかは本当に悩みました。
どちらのタイプでも構わないと伺ったので余計に悩みました。
そこにコンポーネントにカーボンを取り入れるのか、変速は何速にするのかなど、同時に何パターンも考えます。
「スポーティな物もお好み」と事前にお伺いしていたので、カーボンパーツは取り入れたい。となると、Shimanoではなく、Campagnolo。
ただ、現行の12速や11速カンパニョーロも検討しましたが、ブラックの割合が多すぎて、クラシックさが表現しにくと思ったのと、このオレンジのフレームと組み合わせた時に少し重々しいかなと感じたので、カーボン製でありながらもどこかクラシカルさが出ているRecord 初代カーボン10速を選びました。

完成して仕上がりだけを見れば、サラリと組まれた(簡単に構成を考えた)ように見えるかもしれませんが、とても時間を掛けて、お客様とも連絡を取りながらその都度再考してを繰り返し完成に至っています。
いかにしてオレンジ色のフレームを引き立たせるか。
細かなパーツですが、スポークに関してもシルバーなのかブラックなのか。
シートポストもアルミのシルバーから、カーボン、そしてチタン。
サドルもレーシーな雰囲気ならBrooks CAMBIUMシリーズも候補に上がってきます。
フレームに合わせたオレンジもカッコ良いし、ブルー系で少しアクセントを付けてもカッコ良い、レザーのブラックで艶っぽく引き締めるのも有りだな。などなど、徐々に組み上がっていくモールトンを前にして、イメージを膨らませてパーツを選んでいきます。
基本、できる範囲でイメージしたパーツを取り寄せて、実車に仮付けしてみます。
その上で、全体像を眺めながら最終的な判断をしていきます。
その際、イメージと違って使わなかったパーツは在庫になってしまいますが、それは覚悟の上です。

仕事として任せて頂いている以上、構成を考えいる間は楽しさなんて微塵もなく、現在流通しているパーツは装着不可なものも多く、正直苦しさの方が多いですが、それと同時にこのようにお客様から信頼して任せて頂けているということは大変光栄に思いますし冥利に尽きます。なので出来上がってお客さまにお渡した時の安堵感は何ものにも変え難いなぁといつも思います。