2025-05-18

AM-New Series フルレストア&カスタマイズ


20年前に製造された2004年 AM-New Seriesの
フルレストアとカスタマイズのご依頼です。
こちらの車両は、Moku2+4で販売していた中古のNew Seriesですが、
色々と手の込んだレストア&カスタマイズでしたので
一年前の2024年に仕上がった事例ですが詳細をご紹介します。

この当時のNew Seireisは、フロントギアの仕様がシングルとダブル、
どちらか選べるように設定されていました。
このモデルはシングルで注文されていたものだったので、
今回のレストアでダブルに仕様変更されました。
私自身が所有するNew Seriesや丁度お預かりしていた別のお客様のものであったり、
その場で確認できる複数台のNew Seriesを参考にして
英国モールトン社で依頼したかのような、
元々そうであったかのような、限りなく同じ雰囲気になるように仕上げました。

前後ハブとボトムブラケット以外のコンポーネントに関しては
操作性の相性もあるためお任せいただきましたが、
その他の機能面やルックスなどポイントとなる部分は
お客様のご希望を伺った上で組み上げました。
そして車体のカラーは元々のブリティッシュグリーンから
サファリグリーンに変更されています。


左)Suginoのクランクアームにブラックのチェーンリング
右)リアーディレイラー:Shimano Dura-Ace 7700

GOKISOのボトムブラケットを別途所有されているモールトンにも装着されていて、
このNew Seriesにも取り付けを希望されていたので、
クランクはテーパースクエアを採用しているSuginoを選ばれました。

ブレーキキャリパー: Dura-Ace 7700

Moku2+4でハンドメイドしたフロントディレイラーマウント。
シマノ Dura-Ace 7700(9speed)に合わせて作成しています。

それに伴って、フロント変速用のインナーケーブルガイドと

フロント変速用のアウターケーブルガイドも
Moku2+4で取り付けました。

前後ハブはMade in JapanのGOKISO製(別注カラーの松葉色)

Moku2+4オリジナルモスキートバーに極太スポンジグリップ

サドル:BROOKS B-17 チタン


レストア前

塗装の剥離

英国モールトン社から取り寄せた純正のディレイラーマウントを使用。

フロントディレイラーマウントに使う材料は、
現行のモールトンAMシリーズでも採用されている
Made in JapanのKAISEI(カイセイ)社製のニッケルクロムモリブデンです。
チューブはモールトン純正と同じ径を使います。
1本のチューブを適切な曲げになるよう試作しながら進めていきます。

適切な曲げができたら、銀ロウで仮付けします。

チューブをカットし、ザグリをします。

まずは補強チューブを銀でロウ付けします。

次にモールトン純正のフロントディレイラーマウントを銀でロウ付けします。
ここはかなり慎重な作業になるので撮影できませんでしたが、
傾き、角度、位置など1mmもズレてはいけないので、
モールトン専用のジグを製作し、何度も何度も位置を確認しながら銀でロウ付けします。

次はインナーケーブルガイドの取り付け作業に入ります。
クランクセットとフロントディレイラーを仮に装着し、
実際に動作確認をして、インナーケーブルガイドの位置を確認します。
念のためDura-Ace 7800のフロントディレイラーでも動作確認をしてみましたが、
Dura-Ace 7700(9speed)のフロントディレイラーの方が相性が良かったので
こちらを選択しました。


シフトのケーブルガイドをロウ付けする前に、補強プレートを製作します。
ロウ付けする箇所はパイプ外径が小さく肉厚が薄いため
純正のフロントダブルのフレームは極薄プレート補強されていました。
そのため同じように仕上げていきます。

次にケーブルガイドをロウ付けしますが、角度を慎重に確認しながら作業していきます。
ここの角度が甘いとシフトチェンジの際にワイヤーが干渉してしまい、
引きが重たくなるので細心の注意を払います。

次にキングピン周り(矢印の位置)のシフトケーブルガイドを製作します。

モールトン純正と同じような見た目にするためパイプに"すり割"を作ります。

すり割のパイプが出来たら、モールトン純正と同じ位置になるように調整します。

これでインナーケーブルガイドの銀ロウ付けが完成しました。
次はフロントディレイラー用のアウターケーブル受けの取付作業に取り掛かります。

フロントがシングルギア仕様のフレームなので、
ブレーキアウター受けはパイプの中央に銀ロウ付けされています。
当然フロントのシフトアウター受けがない状態になるので、
まずはその中央にある元々のブレーキアウター受けを削り落とします。

左)手持ちのアウター受け(左側)と半分削り落とした純正のアウター受け(右側)

手持ちのアウター受けとモールトン純正のアウター受けでは長さが違うので
半分だけ原型を残して削り落とし、アウター受けの長さを確認します。

シフトアウター受けをブレーキアウター受けと同じ長さに削り、
位置を確認して銀でロウ付けします。
これでフレームのロウ付け加工は終了です。

ここから塗装をすべて剥離していきます。

剥離作業の工程では塗装の下でフレームの地肌が腐食していないかどうか、
状態を細かく点検していきます。

塗装の剥離ができました。
フレクシター・スプリングを備えたNew Serirs系のモデルは、
フロントサスペンションのパーツ点数が多く、
2015年辺りまでのモデルはさらにパーツ点数が多くなるため、
塗装の剥離をするだけもで大変時間が掛かります。

塗装の剥離ができても、そのまま塗装へ出すのではなく、
フレームを仮組みし、クランクセットとフロントディレイラーも装着して
動作確認とその他細かな最終チェックを行います。

塗装前の最終チェックが済んだら
各部品を整理整頓しながら、塗装に出すために丁寧に梱包します。

塗装の色はサファリグリーン(Safari Green)です。
ここから組み立てをどんどん進めていきます。

リアフォークピボットのフレクシター・スプリング挿入部は、
サビ止めを塗布し固着を防止しておきます。

フレクシター・スプリングをMoku2+4 オリジナル工具を使いながら、
慎重に圧入していきます。

ヘッドチューブの下処理をします。

フォークコラムの下玉押し(クラウン)の下処理をしますが、
こんなところも市販の工具が使えないので、Moku2+4オリジナル工具を使います。
左)下処理前、右)下処理後


フロントフォークを単体で仮組みしてアライメント点検をします。

次にリアフォークのアライメントを点検します。


リアフォークエンドにズレがあったので、ほんの少し削って修正します。

荒削り後は、ヤスリの番手を細かくしながら表面の凹凸を整えます。

研磨後
左)修正前、右)修正後

下処理が終わり、フロントフォークも組み付けて
ようやくフレームが完成しました。
いよいよここからコンポーネントを取り付けていきます。

ボトムブラケットはGOKISO製を使います。
この年代のNew Seriesは、リアピボットにフレクシター・スプリングを備えているため、
ピボットのフレーム幅が大きく、簡単には取り付けできません。

画像では分からないのですが、
ボトムブラケット(BB)とクランクアーム内側が干渉しかけています。
(規定トルクで締めると干渉します)
干渉を防ぐ方法としては、BBの軸長を長くすれば干渉を防げることも多いですが、
それではチェーンラインがズレてしまいます。
チェーンラインが数mmズレるぐらいなら問題ないことも多いですが、
GOKISOのBB軸長が3種類と設定が少ないため、
現在選択しているBBの軸長より長い物を選択すると極端に長くなってしまい、
チェーンラインが大幅にズレ、変速に大きく影響が出てきます。



解決策として最終的にはクランクアーム内側(右画像→の部分)を削ることにしたのですが、
それまでにBBの軸長を変えてみたり、BBを左右逆に取り付けてみたりと、
この判断に辿り着くまでトライ&エラーを繰り返して最善策を探っていました。

クランクアームを加工するにしても、基本はあまり削り込みたくないので、
最小限にとどめます。隙間は約1mmぐらいです。

次にパーツをオーバーホールします。
絶版品で美品のディレイラーですが、動かしていない時期が長いので、
全て分解して洗浄し組み立て直します。



次に泥除けを取り付けます。
モールトン純正の泥除けを取り付ける際、多くの場合、
キャリパーブレーキの内側にある小さな調整ボルトが泥除けに干渉してしまい、
ブレーキレバーの引きが悪くなってしまうので
泥除けに5mmほどの穴を開けて逃げを作りました。

左)フロントマッドガードステーの取付方法を少し変更するため
純正のマッドガードステー(左側)を本所工研製のマッドガードステー(右側)に交換します。

右)マッドガードの裏側に純正品には付いていない補強プレートを取り付けます。
補強プレート(左側)の先端が長すぎるのでマッドガードに合わせて加工します。
加工後の補強プレート(右側)

この年代のNew Seriesは、フロントマッドガードを取り付ける際は少し特殊なので、
取付金具などを加工していきます。

フロントの泥除けの段付きスペーサーを製作して、
各ボルト類が綺麗に収まるように考えます。
ワンオフでスペーサーを製作。

この部品をフロントの泥除けに使用します。

モスキートバーに極太スポンジグリップを使う場合は、
内装ケーブル用のブレーキレバーを選択します
ケーブルを通す穴を斜めにくり抜き綺麗に研磨します。
あとはコンポーネントを組み付けて完成です。

モールトン自転車は、同じモデルでもハンドメイドならではの
「1台1台が微妙に異なっている」という特徴を持っているので、
それぞれ個性のあるフレームとコンポーネントとの相性というものがあるのですが、
モールトンの性能を最大限発揮するには、作業の積み重ねだったり、
それぞれに応じた組み付け方法や調整が大事だと思っています。

最善策を探ったり、アイデアを振り絞ったり、
焦りから気持ちのゆとりが持てず思考停止に陥ることもありますが
そういう時は無理に考えないようにして、少し時間を置いたりして、
なのでお時間をいただくことも多いのですが、
これが上手くいけば走ってて楽しいだろうなと思うので
時間の許される限り、諦めずにイメージを膨らませてアイデアを駆使します。
そうすれば素晴らしいモールトン自転車に仕上がると思っています。

今回も素晴らしいモールトン自転車に仕上がったと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです。