TSR-9をベースにグラベル仕様にフルカスタマイズされた事例をご紹介します。
13年前にTSR-9の完成車(フラットバー)を購入され、
オーバーホールをしながら、10年の節目にホイールのアップグレードをされたりして、
じっくりモールトンを楽しまれてきました。
今回は何度目かのオーバーホールのタイミングに合わせて
純正のロードバイク用キャリパーブレーキからMTB用 Vブレーキに変更されて、
[GRX]のデュアルコントロールレバーは、
油圧式ディスクブレーキしか展開されていないため、
機械式(リムブレーキ)のモールトンには装着できません。
[GRX]と同等の機械式グレードをシマノに確認すると
ロードコンポーネント[ULTEGRA]がそれにあたり、相性も問題ないとのことだったので、
[ULTEGRA]デュアルコントロールレバーを合わせました。
TRPのショートリーチ Vブレーキ。
今回のカスタムでは未舗装路でも安心して走行できる太めのタイヤを選ばれたので、
Vブレーキ用のフォークを本国にオーダーして、
前後フォーク丸ごと交換されています。
(キャリパーブレーキ用の前後フォークは、
将来また元に戻すかもしれない時のために別途保管されています。)
ちなみにTSRの完成車は前後フォークがキャリパーブレーキ専用に設計されてるので、
太くても1.35まで、1.5以上の太いタイヤは履くことは難しいです。
ホイールハブは130mのCampagnoloを付けられていますが、
これは購入されてから10年目にカスタマイズされたものです。
この時にリアエンドを5mm修正しています。
TSR-9のリアエンド幅はMTBの135mm規格ですが、
Campagnolo(ロード規格)の130mmに合わせて
定盤でフレームセンターが狂わないように修正しています。
今回のVブレーキ用リアフォークもエンドが135mmなので
130mmに修正するか検討しましたが、
Vブレーキ装着時のクリアランス(開き具合)が変わってしまうことで
ベストなセッティングができない可能性があったので
5mmの修正はせずに、Campagnoloのハブ専用のアダプターをワンオフで製作しました。
アダプターを取付けた状態でホイールの再調整をしています。
DIXNA のグラベルハンドル。
ハンドルのエンドが外側に開いているのがグラベルハンドルの特徴です。
MTBハンドルが長いのは悪路でもバランスが取りやすいためでもありますが、
グラベルハンドルもそういった点が考慮されています。
またフロントバッグやパニアバッグとの干渉も
ハンドルのエンド幅を広げることで解消される点もあります。
左)BROOKS レザーバーテープ "OLIVE"
右)日東製のアルミエンドキャップ
絶版品の"日東製 Moku2+4 オリジナル" ステム。
左)イギリス製"Carradice" Moku2+4 別注 パニアバッグ (バーガンディ)。
右)イギリス製"Carradice" TSR純正 リアラージバッグ。
<作業編>
カスタマイズ前はこんな感じでした。
オーバーオールも兼ねてのカスタマイズなので全て分解します。
奥)元々付いていたキャリパーブレーキ仕様のリアフォーク。
手前)英国モールトン社に別注したVブレーキ用のリアフォーク。
既存のフォークを使う場合は、
キャリパーブレーキ台座を取り除いて、
新たにVブレーキ台座をロウ付けすることになりますが、
前述の通り、今回はVブレーキ用のフォークを新調されました。
左)キャリパーブレーキ仕様のリアフォーク。
右)Vブレーキ仕様のリアフォーク。
リアサスペンションがスムーズに動くようにリアフォークピボットの調整をした後、
画像のフレームのアライメント調整に入ります。
フレームを組んだ状態で中心がズレていないかを確認する作業です。
このタイミングで修正を行う場合もありますし、
次の作業のようにリアフォークエンドで修正する場合など、状況で修正作業は異なります。
新調されたVブレーキ用のリアフォークエンドが1mm弱ズレていたので修正します。
左)削って修正した後。
右)錆止めを塗りました。
乾燥後に黄色でタッチアップします。
フロントフォークもアライメント確認をします。
画像はここまででが、
フレーム&サスペンションのオーバーホール作業と
ハブを除くコンポーネントを一式を交換して完成です。
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ホイールをカスタマイズされたのは3年前ですが、
その時はまだ[GRX]が存在していなかったので、
将来Campagnoloのコンポーネントを選ぶだろうと想定して
Campagnoloハブを選ばれていました。
モールトンを購入された当初はそれほど頻繁に乗ることはなかったそうですが、
ハブのアップグレードをキッカケに
全然違う!めちゃくちゃ走る!と新しい楽しさを発見されて、
コンポーネント一式交換のイメージを持ちつつ、走行距離も増やしつつ、
どのスタイルが自分に合ってるかを考えながら楽しんでおられました。
今回もご相談を受けた当初はCampagnoloのコンポーネントで検討されていましたが、
シマノ[GRX]が選択肢に加ったことで、
モールトンで未舗装路も走れたらもっと楽しみが広がるかもという気持ちになられて、
どちらのコンポーネントにしようか最後まで悩まれていましたが、
グラベルの[GRX]を選ばれました。
話が脱線しますが、ハブの転がりについて。
ハブの良し悪しはボールベアリングの性能
(グリスの要らないCampagnoloセラミックベアリングなど)
で変わるといえば変わりますが、
結局のところ最後は「調整」の塩梅で転がりに雲泥の差が生まれます。
ここで言う「調整」については、シマノやCampagnoloが採用している
カップ&コーン構造についてですが、この「調整」次第では
本来なら転がるはずのものも転がらないという結果になってしまいます。
今回依頼して下さったオーナーは、購入から10年目にハブを交換されて、
ホイールの転がりが以前より明らかに違っていることを体感されてから、
よりモールトンが楽しめるようになって走行距離も自然に伸びたとおっしゃってました。
車輪の中心「ハブ」というパーツは、アップグレード後やオーバーホール後など、
変化が感じ取りやすいところなので、
ホイールのオーバーホール後やカスタマイズ後に軽く試乗していただくことが多いのですが、
皆さん「よく転がりますね。何気にストレスなく楽しく乗り続けていましたけど、
こんなにも変わるんですね。」と言われる方が多いですね。
そう感じ取っていただけるとこちらも嬉しくなるのですが、
ハブの調整次第で自転車全体の印象(仕上がりの印象)も違ってくると思うので、
心地よく転がるように「玉当たり」の感触を何度も繰り返し確認しながら
いつも調整しています。
ゆっくりじっくり楽しまれているオーナーですが、
その雰囲気が感じられる素敵なモールトンですね。
ドロップハンドル初挑戦とのことですが、
まずは変貌を遂げたモールトンをじっくりと楽しんでから、
ゆくゆくは自然に触れられるテンカラ釣りにも挑戦してみたいとおっしゃってました。
こういったお話を聞くと
モールトンと一緒に世界が広がっていってる感じがしてならないです。