2020-05-22

モールトン博士 生誕100周年、モールトンについて、自転車について思うこと。

2020年はモールトン博士生誕100周年という記念の年ですね。
でもCOVID-19(新型コロナウィルス)で4月に開催される予定だった博士の記念イベントも延期になりました。
未知のウィルスCOVID-19の出現は、依然として深刻な状況が続いています。
意識を大きく変えなければいけないタイミングなんだと思います。
今回のCOVID-19とは状況は異なりますが、モールトン・バイシクルが誕生したのは
「紛争」という有事がきっかけでした。

モールトン・バイシクルの開発が始まったのは1956年、1957年辺り。
ちょうどその頃、1956年にイギリスとフランスが管理していた中東の「スエズ運河」を
エジプトが国有化しようとしたため、イギリス・フランス・イスラエルが共同でエジプトに侵攻。「第二次中東戦争」勃発しました。
その「中東戦争」の影響でガソリンが配給制になったことをきっかけに、モールトン博士は交通手段としての「自転車」を見直すことを始めます。

<ホイール径に着目>
 乗り物のホイール径は馬車からはじまり、その後どんどん小さくなっていたため、
 自転車にも大きなホイールは必要ないと考えた。
 それまでの乗り物は、でこぼこ道や泥濘(ぬかるみ)を走るための大きなホイールが
 必要だったが、道路が舗装された今日に大きなホイールは必要ないと考えた。

・小径ホイールのメリット
 一般車やロードバイク等の大径ホイールに比べて剛性が高いため、トラブルが少ない。
 大径ホイールに比べて漕ぎ出しが軽く、ストップ&ゴーを繰り返す街中の交通手段
 として最適。

・小径ホイールのデメリット1
 転がり抵抗が増える。
 (小径ホイールと大径ホイールを同じ速度で走行した場合、小径ホイールの方が回転が
  多いため抵抗が増える)
 
 解決策
 小径ホイールの高圧タイヤを開発し、転がり抵抗を抑えた。

・小径ホイールのデメリット2
 タイヤの接地面積が少ないため乗り心地が悪くなる。

 解決策
 サスペンションを搭載することで乗り心地を改善しながら、
 ロードホールディング(路面との密着性/安定性)を向上させ推進力も高めることに成功。
 (乗り物にはサスペンションが不可欠と提唱していたモールトン博士。
 モールトン・バイシクルが他のサスペンション付き自転車と大きく違う点は、
 乗り心地だけでなく、1馬力にも満たない僅かなヒューマンパワーを効率的に推進力に
 変換できるところである)

これらに限らず1つ1つの問題点を解決し、モールトン・バイシクルは数々の記録で、
その性能を証明します。
1970年には英国からオーストラリア大陸まで走破、
1986年バンクーバー大会で時速82kmの世界記録を打ち立てることに成功、
1988年には5,000kmを走破するアメリカ横断単独レースで10日15時間で
完走するなど、枚挙にいとまがない。
http://www.moultonbicycles.co.uk/heritage.html#recordsracing

↑ちなみに2007年Suzukaの記録は、Moku2+4と当時現役で活躍されていた
 キャノンデール所属の山本和宏選手と挑戦したMokuTune Racing Moultonです。

またモールトン・バイシクルはマシーンとしてだけでなく別の側面も
持ち合わせています。
<ユニセックス・デザインと運搬車としての機能>
 交通手段のタウンバイクとして使う場合、フレームの乗り降りが安易で、
 運搬用に荷物を載せる前後キャリアが必要だと考える。
 そこでトップチューブを廃止した男女兼用ユニセックス・フレームを考案し、
 さらに荷物を目一杯載せても安定性が損なわれないように重心位置を考えた
 フレーム、そしてキャリアをデザインする。

このように、ホイール1つ1つとっても子供用ではなく成人用の小径タイヤを開発したのはモールトン博士で、フレームだけでなくキャリアも同時に設計し、実用性の高さも考えていたり、またクルマのサスペンションを確実に機能させるためには、高いボディ剛性が必要ですが、モールトン・バイシクルも同じように、パッと見は線が細く貧弱に見える
フレームですが、建築工法の「トラス」を採用した実はとても高剛性なフレームであったりと、モールトン・バイシクルについてはこれらに留まりません。
モールトン博士はスポーツ性能と実用性を兼ね備えた極めてユニークな自転車を作り上げたのです。


次に自転車について思うこと。

COVID-19が猛威を振るう中、自転車の存在意義や根本的概念が欧米諸国をはじめ世界各国で大きく変わろうとしています。WHOはコロナ対策の移動手段として、運動量と対人距離のどちらも確保できる自転車や徒歩を推奨しています。

イギリスでは、20億ポンド(約2,657億)を投じて国内の道路インフラを歩行者と自転車専用道路に整備し直す計画を発表しました。
ロンドンやマンチェスター等で歩道の幅を広げたり、一部の道路を自動車侵入禁止にして自転車や歩行者専用にするなど多岐にわたって様々な取り組みが進められています。

仏パリとその周辺地域では約350億を投じて総延長680kmのサイクリングロードを敷設する計画を発表しました。片道2車線の1車線を自転車専用レーンにするための作業が急ピッチで行われています。
その他イタリア、メキシコなど各国で自転車を取り巻く環境整備が進み始めています。

日本も例外ではありません。
数年前から自転車の活用について官民一体となり本格的に動き始めています。
この4月に「自転車活用推進 官民連携協議会」が『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクトという取り組みを国土交通省が創設しました。(2020年4月3日)

自転車通勤を導入する企業・団体を自転車活用推進部長(国土交通省)が認定し、自転車通勤の取り組みを広く発信するもので、宣言企業と優良企業に分けられ、自転車通勤に対する取り組みを認定するプロジェクトです。
「このプロジェクトに取り組んでいる企業は、環境負荷軽減、従業員の健康増進に取り組んでいる企業としてのイメージアップを図ることができる」というものですが、認定だけでどれだけ実効力があるのかが気になるところですが、実効性以前にどのように周知していくのかという点でも課題がありそうです。

イギリスでは「自転車通勤スキーム(※1)」が国の政策で実施されています。勤務先を通じて自転車やアクセサリーを購入するとその分が給料から天引きされ所得税が控除されるといった内容ですが、この政策はコロナ対策として始まった訳ではなく公共機関混雑緩和や温室効果ガス削減のひとつとして以前から活用されてきた政策です。

フランスでも自転車の修理補助費用などに2,000ユーロ(約23億4千万)規模の新たな自転車利用促進案(※2)を発表しました。修理費に50ユーロ(約6,000円)までの補助や安全に運転するための無料講習が受けられるといった政策です。両国ともに道路インフラから実質的な補助、安全対策まで総体的な取り組みが行われています。

日本とは自転車に対する文化も価値観も異なるので比較はできませんが、例えば日本も企業が交通費を支給しているように、自転車通勤者には自転車やメンテナンス費用などの一部を国ないし企業がサポートしていくような動きが出ればより自転車通勤も増えていくのではないかと思います。ですが、この場合、サポートする側にも実質的な負担が増えますし、道路インフラも整えられていない、またこれに限らず自転車事故の高額賠償事例が増えている中、自転車に対してネガテイブなイメージを持っていたり、自転車通勤に後ろ向きな企業も多いのではと感じていたので、まずはこれをきっかけに推奨する企業が増えることを期待しています。総体的に環境整備を進める諸外国に比べて日本はまだ小さな取り組みに留まっていますが、新しい取り組みがなされたという点で、自転車に対する意識が変化してきていることには間違いないので前向きに捉えていきたいと思います。

※1. イギリスの「自転車スキーム」についての引用元
https://news.yahoo.co.jp/articles/70b30cadeb126643ff5e89ff1a6e23a93328b8ba

※2. フランスの自転車利用促進案についての引用元


またモールン・バイシクルに話は戻りますが、
有事の際に交通手段として「自転車」を見直したことで
 モールトン・バイシクルが生まれた。
モールトン・バイシクルが生まれた背景とは状況は異なりますが、
今回のような非常事態時に生み出されたものだと思うと、
モールトン博士に対して尊敬の念がより深まります。
モールトン・バイシクルの存在意義を今一度考えさせられるきっかけにもなりましたし、
もっともっとこの素晴らしい自転車を世界中のたくさんの人に知ってもらって、
使ってもらいたいと思います。
モールトン博士はいま何を思うのでしょうか・・・。

今こそ自転車を!
Stay Safe, Stay Healthy, Ride Solo!
モールトン・バイシクルで日々の生活に彩りを!

最後はスローガンみたいになってしまいましたが、
ほんとうにモールトン・バイシクルは体にやさしい自転車なんで、
駐輪所や防犯対策など環境が整っていないと難しいかもしれませんが、
もっとたくさんの方にモールトン・バイシクルを実用的に使って楽しんでいただければなと思います。
手入れは必要ですが20年以上は普通に持ちますので、
初期投資は高いですが年数に換算するとそうでもないかと・・・。
長く使い続けられますので、ゴミ問題やCO2など環境にも優しいですし、
最近よく聞く用語で表現すると、まさしくモールトン・バイシクルは
「Sustainnable Mobility/持続可能な移動手段」です。
2店舗目の三条店をオープンしてから4年、モールトン・バイシクルで毎日通勤して思うことは、モールトン・バイシクルに乗り続ける楽しさは何ものにも代えがたい・・・です。


2007年2月 The Hallにてモールトン博士と。