2012-09-12

モールトンのサスペンションについて。

 前回の記事でTSR-30のオーナーさんが、初乗りのインンプレッションで「(モールトンの)サスが思っていた以上に働き…。」と言われていたのですが、この「サスが働き」という表現。とても的を得ていたので、モールトンサスペンションについて少し。

左)1983年から現在まで継続されているリーディングリンクサスペンション
右)ゴムのねじれ(トーション )を使った独創的な構造を持つフレクシターサスペンション


「良く動く(働く)サスペンション」とは、表現方法や感じ方に多少の違いはありますが、基本的には路面からの細かな衝撃を吸収し、車体を安定させ、コーナリングをよりスムーズに旋回できるものが「良いサスペンション」と言えます。
ただ、自転車はクルマと違って、サスペンション付き自転車の表現が広いように感じます。見た目だけでほとんど機能していないものや、動きが極端すぎるものが多いような気がします。

MTBなどのオフロードバイクは、挙動が大きいように見えて高性能なものになると至極シビアな動きをします。モールトン自転車はオンロードバイクですが、MTBと同様にサスペンションが大きな役割を果たしています。モールトンバイシクル日本総代理店のダイナベクター(株)のカタログに、サスペンションそのものの役割について的確に説明されているので一部抜粋すると、

『一般にサスペンションは乗り心地を良くするための物と考えられがちですが、本来の目的は走行エネルギーの効率を高めることにあります。どんなに平坦に見える路面でも厳密にはさまざまな凹凸があり、乗物はそれを乗り越えて走行しています。
クルマでもバイクでも、良いサスペンションに換えるだけで速く走れるようになるのは、車体の上下動が抑えられることにより、エンジン・パワーが無駄なく走行エネルギーへと変換されるからです。』

文末では、自転車はパワーソースが人力というとてもデリケートな乗物であるからこそ、エネルギー効率は重要な課題なんだと締めくくられています。全くその通りで、サスペンションは乗り心地を良くするためだけの物じゃなくて、車体の上下動を抑えて推進力に変換できる機能を持っています。
だからモールトン自転車はサスペンションの役割を重要だと考えているのです。
またモールトンのサスペンションについて、カタログにはこんな事も書かれてあります。

『デリケートなパワーソースを活かすには、その設計は入念な実験と研究が必要となります。劣った設計のサスペンションでは、路面の凹凸やペダリングで車体が浮き沈みし、前へ進むための大切なエネルギーが上下運動に浪費されてしまい、疲れやすい遅い自転車になってしまいます。』

モールトン自転車は、自転車専用のサスペンションを搭載しています。『より速く、より遠く、より快適に』走るために開発されたサスペンション構造とその動きは、見た目だけの物とは一線を画しています。お客さんからも「なんか良く走る。気持ち良くスーッと前に進む。」とよく言われますが、それはモールトン自転車の高性能サスペンションを体感されている証拠です。

ただ、これもサスペンション構造が素晴らしくても、フレームの剛性が弱ければ良いサスペンションも性能を出し切れません。そのためにモールトン自転車はフレームをトラス構造として剛性を確保しています。フレームについてもカタログではこう書かれてあります。

『従来の自転車は、ある程度のサスペンション機能を得るためフレームにしなりを持たさなければならず、乗物としての大切なフレーム剛性が犠牲にされていましたが、モールトン自転車はフレームとサスペンションが独立しているので、フレームはしなる必要が無く高い剛性を持ち優れた操縦性を発揮します。』

モールトンのフレームについては、普段の作業をしていても剛性が高いことを実感します。ロードバイクの場合は、錠盤に載せてメインフレーム(ヘッドチューブとシートチューブなど)を修正すると、以外とあっさり修正できるんですが、モールトンのメインフレームを錠盤に載せて、目一杯押しても、ロードのようにはいきません。このとき「やっぱりモールトンのフレームは剛性高いな〜」と感じています。

ただ単に動くサスペンションと、良く動くサスペンションとでは全く異なります。
サスペンションを備える事によって、路面からの衝撃は吸収され乗り心地が良くなりますが、サスペンションとして良く動いているかという点については少し意味合いが異なります。たまに、サスペンションを備えたモールトン以外の自転車に乗る機会もありますが、あまり動いていないな〜と感じる事がほとんどです。あくまでモールトンと比較してですが。

私がヒルクライムイベントに参加した時も、特に下りのコーナリングの安定感は群を抜いていると感じますし、お客さんからも「後ろから見ていたら、へばり付いているように見えました。」とか、初めてモールトンでヒルクライムに参加されたお客さんからも「ロードも持ってるんですけど、下りに関しては、サスペンションと小径からくる低重心のお陰で、もの凄く安定してますし、速度もロードとそんなに大差が無いように感じました。」と言われていました。これはサスペンションが良く働き、きちんと仕事をしている証拠です。

ただ、モールトンのサスペンションの性能をいかんなく発揮させようと思うと、普通に組み立てただけではダメですし、本国で組み立てられて届いたサスペンションでは、まだまだ良く動かない事が多いです。

とまぁ、サスペンションのことを少し…、と書き始めましたがこんな長文になってしまいました…これでも抑えて書いたんですけどね…。モールトン自転車はまだまだ奥が深いんですが今回はこの辺で。